AIエージェントの管理が必須スキルに

前書き

人工知能（AI）が単なるツールから真のアシスタントへと進化するのに伴い、職場におけるその役割は拡大し、企業の運営方法を根本的に変えつつある。Microsoftの最新調査では、オンデマンドの知的作業要件をAIエージェントと人間のハイブリッドチームが担う、新たな組織形態を「Frontier Firm（フロンティア企業）」と定義付けている。

Microsoftは米国時間4月23日、年次報告書「2025 Work Trend Index」を発表した。この報告書は、31カ国・労働者3万1000人からの調査データ、「Microsoft 365生産性シグナル、「LinkedIn」の雇用・労働トレンド、専門家の洞察を組み合わせ、従業員とビジネスリーダー双方に労働環境に関する包括的な視点を提供するものである。

2025年の報告書では、AI時代の働き方の構造を探る上で鍵となるフロンティア企業という概念に焦点が当てられている。現状との隔たりは大きいが、報告書は、全ての組織が今後2～5年でフロンティア企業へと移行する過程にあると指摘している。

「われわれはチームとしてこの思考実験を行った。もし今日が仕事の歴史の最初の日で、過去のしがらみが一切なければ、どのように仕事を設計するだろうか」とMicrosoftのシニアディレクターでCopilot and Future of Workの研究を統括しているAlexia Cambon氏は語る。「その結果、われわれが仕事の進め方について、いかに多くの固定観念に縛られているかに驚かされた」

1.“フロンティア企業への3段階”

報告書は、組織がフロンティア企業へと変革していく3つの段階を示している。

第1段階では、従業員がAIアシスタントと対話し、より効率的に作業を進める。

第2段階は、AIエージェントの活用になる。ここでは、AIエージェントが人間の指示の下でタスクを実行し、それによって人間の時間を創出する、より「デジタルな同僚」として機能する。

「われわれのほとんどが現在いるのは、AIが職場のアシスタントとして登場している段階だ」とCambon氏は述べる。「しかし、われわれは、AIエージェントが労働力の一部となり、人間が新たな知識労働に取り組むのを支援するフロンティア企業へと、間違いなく移行していくと考えている。そして、それは（現在の組織とは）全く異なるタイプの組織である」

最終段階（第3段階）では、人間がAIエージェントのチームと協力する。
これらのAIエージェントは、ビジネスプロセスやワークフロー全体を実行できるようになる。報告によると、AIが知識労働に進化する過程は、AI対応のソフトウェア開発が、単なるコーディング支援からチャットインターフェースを経て、ユーザーに代わってタスクを実行できるエージェントへと進化したのと同様の軌跡をたどるだろう。

2.“AIの進化がアシスタントとして企業に与える影響”

生産性の向上

報告によると、AIを組織に導入することで実際の生産性向上が確認されており、その最大の利点の一つは能力ギャップの解消である。世界の労働者の80％（従業員・リーダー双方を含む）が、仕事量が多すぎる一方で、それをこなす時間やエネルギーが不足していると感じている。

報告書によれば、組織は今や「オンデマンドでインテリジェンスを購入」できる状態にある。これを実現するのは、デジタル労働力として機能し、必要に応じて規模を拡大できるAIエージェントである。

報告書では、リーダーの46%がワークフローやプロセスの自動化にAIエージェントを利用していると回答した。エージェントと人間の具体的な連携方法は機能によって異なり、一部のタスクはエージェントが自律的に処理する一方、他のタスクではより多くの人間の関与が必要となる。

しかし、AIを追加するだけでは十分ではない。ビジネスの進化速度は人間の作業速度を上回っており、知識集約型のタスクを抜本的に見直す、より大きな変革が必要とされているためだ。

報告書は、ビジネスリーダーが知識労働者と知識集約型タスクそのものを切り離して考える必要があると指摘する。創造性や判断力といった高度な能力を持つ人間が、メールの返信のような作業に時間を費やすべきではない、という認識が重要になる。プロフェッショナルが日々「メールを送る」や「ピボットテーブルを作る」のと同様の感覚で、近い将来には「AIエージェントを作成・管理する」ことが求められるようになるだろう。フロンティア企業は、こうしたアプローチが持つ可能性を既に示している。

報告によると、調査対象3万1000人のうち、フロンティア企業の5つの特性を満たす企業で働いていた従業員はわずか844人だった。これらの特性には、組織全体でのAI導入、AIの成熟度の高さ、現在のエージェント使用、将来のエージェント使用の予測、そしてエージェントがAIの投資収益率（ROI）を実現する鍵であるという信念――が含まれる。

これらのフロンティア企業の従業員は、自社が「繁栄している」と回答した割合が71％に上り、これは世界平均（37％）を大きく上回る。また、「より多くの仕事を引き受けられる」と回答した割合は55％（同20％）、「より意味のある仕事ができる」とした割合は90％（同73％）に達した。AIに仕事を奪われる懸念を持つ割合も低い（フロンティア企業の21％に対し、世界平均は38％）。

労働力の変化

AIがもたらす肯定的な成果の一方で、労働力の在り方や運用方法にも必然的な変化が生じるだろう。全ての業界がそれぞれ異なる形で変革を経験し、AIは新たな雇用を創出する一方で、既存の職務を代替することにもなる。調査対象のビジネスリーダーの45％が、今後12～18カ月でデジタル労働によるチームの能力拡大を最優先事項であると回答した。AI投資が加速される上位3つの分野には、顧客サービス、マーケティング、製品開発が含まれる。

デジタル労働力を拡大した後も、企業が利益を最大化するためには、人間とAIエージェントの適切な比率を見極めることが重要だと研究者は指摘する。これは、従業員1人当たりのエージェント数が少なすぎて潜在能力を活用しきれない状態と、多すぎて人間の処理能力を超えてしまう状態との間で、最適なバランスを取ることを意味する。バランスの例として、報告書は、AIを使用する個人はテゐクノロジーを使用しないチームを上回るが、AIを使用するチームは誰よりも優れている、というハーバード大学の研究を引用している。Cambon氏はこの傾向について、組織がAIを用いて人間の必要性を完全に減らすのではなく、人間とAIがペアを組むより大きなチームを持つことで、より良い結果が得られることを示している、と強調する。

「人員を削減してAIに置き換える必要はないと思う。最良の結果を得るためには、人員を維持し、AIでそれを増強する必要がある」とCambon氏は述べる。職場における変化のもう一つの側面は、AIを単なるツールではなくチームメートとして捉え、プロジェクト管理のような高度なタスクもAIに任せられるようにすることだ。しかし現状では、回答者の52％がAIをコマンドベースのツールと見なし、「思考のパートナー」と捉えているのは46％にとどまる。

「われわれは、AIの使い方について、より一貫した理解に向けて取り組む必要がある。なぜなら、AIを単に検索エンジンやスプレッドシートのように扱っているだけでは、それをデジタルな同僚として捉え、共に試行錯誤やブレーンストーミングを行うような使い方をしなければ、真の成果は得られないだろう」とCambon氏は指摘する。AIエージェントの能力を最大限に引き出すには、的確な指示（プロンプト）やタスクの委任、反復的な改善、技術の洗練といった管理スキルが求められる。こうしたAIエージェントチームを効果的に管理する人材が必要となる中、「エージェントボス」という、最高のパフォーマンス達成に責任を持つ新たな役割が生まれつつある。

「誰もがエージェントを管理する必要があるだろう」とCambon氏は語る。「エージェントがいれば、キャリアの浅い人でも、仕事の初日からマネジメントを経験できるようになると思うと、私は興奮を覚える」。こうした職務の変化に伴い、従来の組織図も変化する可能性がある。その代わりとして、Microsoftは「Work Chart」を提唱する。これは、「従業員の能力範囲を拡張し、より迅速で影響力の大きい働き方を可能にするエージェントによって推進される、機能ではなく目標を中心にチームが形成される成果主導型のモデル」という。

Microsoftは、この新しい働き方を映画制作の現場に例えている。映画制作では、特定のプロジェクトのために専門家チームが集結し、完了すれば解散する。これと同様に、さまざまなAIエージェントが連携して目標を迅速に達成した後、人間の従業員を再編成することなく、次の新たなプロジェクトへと移行していく、という考え方だ。

AIスキルを持つ人材への需要も高まっている：

ビジネスリーダーの47％が今後12～18カ月で既存従業員のスキルアップを最優先事項とし、マネージャーの51％が5年以内にAIトレーニングやスキルアップがチームの主要な責任になると考えている。また、35％は今後12～18カ月でAIトレーナーの採用を検討中だ。調査対象のビジネスリーダーの33%が人員削減を検討している一方で、Microsoftは新たな役割が登場すると予測している。フロンティア企業（95％）および非フロンティア企業（78％）のビジネスリーダーの大半が将来に備え、マーケティング、財務、顧客サポート、コンサルティングなどの領域で、AIエージェント専門家やAIストラテジストといったAIに特化した役割のために人材採用を検討している。

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「われわれは、この新しいタイプのインテリジェンスを、代替ではなく追加と見なしている」とCambon氏は付け加える。「幾つかの仕事はなくなるだろう。それは自然な成り行きだが、仕事が完全になくなることは絶対にないと考えている。新しい仕事が生まれ、現在の仕事が進化すると信じている」 。

E-MAIL:service@itenez.com

出典：
https://news.yahoo.co.jp/articles/14f06a9af00bad9d3e8523552d530bf0492d5914?page=1